水中毒・・・ご存じですか?
毎日、暑いですね。体温まで上がってしまいそうです。実は、気温が上がると、体温も一緒に上がってしまいます。そこで人間は、汗をだして蒸発させることで、熱を体から逃がしています。
ところが、逃げていくのは、水分と熱だけではないのです。汗と一緒に、塩分も出ていってしまうのです。ですから、汗を沢山かいたときに、水分だけを補うと、ただでさえ、少なくなった塩分がさらに薄まって、塩分濃度が低くなってしまいます。
そうなると、体の細胞が浮腫みはじめます。まず、筋肉が動かなくなります。重症になると、脳細胞もむくみ、意識が朦朧としたり痙攣を起こしたりします。汗を沢山かいたときには、水分だけでなく、塩分も補いましょう。
・・・といっても
補う塩分は、水100mlにつき、1gです。小さな梅干し一個分ぐらいです。塩分のとりすぎも注意しましょう。
発熱についての「あれこれ」
普段、あまり気にしない体温も寒気がしたり、だるくなると気にかかります。体温計で、平熱よりも高いことに気が付くと、それだけで、慌ててしまったりして、気分まで病気になってしまいませんか?何故、熱はあがるのでしょう。
ウイルスやバイ菌が、体内に入り込むと、身体は、それを退治するために、全身に信号を出します。その一つの現れが、発熱なのです。
ということは・・
熱は「病気と闘うぞ」という合図のようなものなのです。もし、この時に、熱がでないように、下げてしまうと「闘うぞ」という合図が、行き渡らなくなります。場合によっては、侵入者を退治できなくなることも。でも、熱はつらいですよね。高熱は、体力を消耗させます。そこで、なるべくなら使いたくないですが、熱で消耗して負けそうだ、あるいは、熱のせいで食事も取れない、そんな場合に、解熱剤を使います。
そうです。解熱剤は、熱を下げるために使うのではなく、体力を蓄えるため、高熱による消耗を避けるために使いましょう。出来るなら、氷まくらが、一番です。
秋の空と健康管理?
風に秋を感じる季節になりました。諺にもあるように、秋は気候が変わりやすく、体調も崩しがちです。ところで、気候が不安定だと、どうして身体の具合が悪くなるのでしょう。
私達の身体には、ウイルスやバイ菌などと戦う免疫機能があります。そして、この免疫を担っている血液細胞は、大きく二つの種類に分かれます。この免疫を担当する二種類の細胞は、交代で働いているらしいのです。つまり、片方が張り切って働く時は、片方は、少し休んでいるという具合で、人間は、この二種類の免疫細胞のバランスで、身体を守っているようです。
さて、このバランスは、気圧で変化すると、言われています。ということは、高気圧と低気圧が、入れ代りに訪れる秋の始まりは、このバランスも激しく変化することになります。こういった免疫のスキを突いて、風邪(ウイルスです)をひいてしまったり、肺炎(バイ菌です)になってしまったりするのです。また、喘息などのアレルギー反応(二種類のうち、片方の免疫の働き過ぎから起きます)も起きやすくなるのでしょう。ですから、気候が不安定な季節は、身体を労ることが大切です。
余談ですが、私達の免疫担当細胞のある種類のものは、楽しいことで活発になります。秋は、味覚の季節でもあり、自然にも癒される季節です。秋の楽しみは、不安定な気候に乱される免疫を手助けする、自然からの贈り物かもしれません。
こんな時は、何科がいいの?
昔むかし、医者といえば、内科医だけでした。英語で内科=メディスンは、そのまま「医学」と言う意味でもあります。残念なことに、人間の歴史は、戦争と無縁ではありません。 そして戦争は、外科という分野を発展させたのです。さらには、外科の発展から麻酔の専門科が必要になりました。
こんな具合で、社会の発展とともに、きめ細かく専門的に対応する必要から、子供は小児科、皮膚は皮膚科と、分かれていったのです。さらには、内科の中でも、呼吸器内科、消化器内科、神経内科と言う具合です。今は、もっと細かくなって、手の外科、肝臓内科、血管外科、乳腺外科、アレルギー科、糖尿病外来など、臓器別、病気別にまでなってきました。
専門に分かれて、高度で最先端の医療を提供するのは、いいのですが、さて、「胸が苦しい」人は、何科にいけば良いのでしょう。呼吸器内科、循環器内科、もしかして、肋骨の痛みなら、整形外科、あるいは胸部外科。ひょっとしたら、血管外科、心臓外科、気のせいかもしれないから心療内科、精神科、神経内科、神経科、さあ、どれでしょう。
実は、いきなり細かい専門の科を受診すると、違った場合は、面倒になります。もちろん、お医者さんによっては、専門以外の病気も診たりします。けれども、大きな病院で、同じ場所に他の専門の同僚がいれば、やっぱり、そちらで診てもらおうと思うのです。医学の入り口が、内科と外科などのように、やはり、最初に行く医療機関は、おおまかな標榜(何科という看板に出すことです)の科が、お勧めです。
ちなみに、現在、歯科系を除いて、標榜できる科の数は、33科目*と麻酔科です。(麻酔は、特別な許可が必要です。ちなみに、私は、麻酔科標榜医ですが、クリニックの施設などを考えて、麻酔科を看板には書いていません)数年前になりますが、ある病院で、休日の当直をしていましたら、顔をぶつけて、鼻血が出たという、3歳のお子さんのお母さんから電話がありました。鼻血は、すぐに止まっていたのですが、子供が痛がるので、骨折ではないかと、心配されているようでした。最初、小児科へ向かったようですが、鼻の事は、わからないから、耳鼻科へと言われたそうです。休日の大学病院の耳鼻科へ連絡したところ、担当の医師から、出血が止まっていて、顔の骨の骨折が心配なら、形成外科か、歯科の口腔外科が良いと言われました。
そこで、困ってしまったお母さんからの問い合わせでした。ちなみに、その病院は、耳鼻科、小児科、口腔外科は、看板に書いてありません(標榜していません)。
実は、顔の骨の骨折という分野は、私の場合(20年ほど前ですが)、耳鼻科の教科書で習いました。ですが、今、ネットで「顔面骨骨折」検索してみてください。耳鼻科は、余り出て来ません。ほとんどの大きな病院は、形成外科か、歯科の口腔外科が扱っているようです。「治療は、出来なくても診断ぐらいは、外科か、整形外科で」と思われるかもしれませんが、耳鼻科、もしくは形成外科の教科書で習っただけで、経験がなければ、診断にも自信が無くなります。なにしろ、顔の骨は、複雑な形のうえに、もともとツギハギで出来上がっています。それに何よりも、大学や大きな病院の外科や整形外科では、お目にかからないのですから。
私は、どうしたかと言いますと、外傷が専門の救急部の出身でしたから、大学でも顔面の骨折は、何度も診てましたので(治療は形成外科にお願いしてましたけど)、お引き受けしました。こんな具合ですから、一般の方が、どの科を受診したら良いか、迷うのは当たり前です。可能ならば、勤務中の医者が、得意な分野を「正直に」看板に書けると、お互いに助かりますよね。最近、厚生労働省では、専門医制度を整備して、広告が、出来るようにする動きもあります。
風邪薬って?
風邪の季節ですね。テレビでも風邪薬のコマーシャルが多くなりました。でも、良く注意して見てください。「風邪に効きます」とか、「風邪を治します」とは、言わないはずです。ただ、映像のほうは、急に元気になった演技で、あたかも風邪が、すぐ治るような錯覚を与えてしまいがちですが、説明の言葉や文章は、「風邪の諸症状に、早く良く、効きます」、「熱、鼻水、ノドの痛みを緩和します」と、コマーシャルしているはずです。
そうです。風邪を治す薬は、まだ、発明されていないのです。症状を緩和するだけで、風邪の原因には効きません。ただし、インフルエンザには、効果のある薬があります。
ところで、風邪の原因って何でしょう。寒さ、暑さでしょうか?あるいは、寝不足、過労でしょうか?両方とも正解です。ですが、一番の犯人は、風邪を引き起こすウイルスです。有名なインフルエンザも、ウイルスが原因です。肺炎などを起こす細菌とは、どう違うのでしょう。まず、大きさが違います。細菌は、ウイルスの1000倍ぐらいの大きさです。構造も違っています。細菌は、私達の細胞に似てますが、ウイルスは最小限の遺伝子とそれを包む膜だけです。そしてなにより、ウイルスには抗生物質が効きません。
というわけで、風邪の特効薬はないのです。予防には、気候に備え、体調を万全にするという事が大事です。かかってしまったら、安静にして、体力を回復させる以外、治す方法がないようです。風邪薬は、ウイルスで弱った体調を回復する手助けをするだけです。薬で、熱や痛みが治まっているからといって、無理をしては、何にもなりません。辛い症状を上手く抑えて、その間に充分に休養する、これが最良の治療法です。風邪ぐらいと、無理をしてしまうのが、「風邪は、万病の元」と言われるゆえんですね。
ヤケドの季節
寒くなりました。この季節に増えるのが、子供さんの火傷です。正しくは熱傷と言います。
何故、冬に増えるか、考えてみました。原因で多いのが、お茶、カップラーメン、みそ汁など、食事でテーブルに載せるものです。季節柄、温かいものを食べたい、というのもありますが、テーブルクロスやコタツ布団をひっぱったり、という事故もあります。
季節柄といえば、ストーブの天板、温風ヒーターの吹き出し口、それから、湯気です。冬になると目に見えるようになるので、小さな子供が触れたがります。沸騰した湯気は、100度以上です。湯沸かしポット、炊飯器など、湯気の出る物は、手の届かない場所へ。ヤケドは、事故防止が大切です。
もし、ヤケドしたときは、まず、水道の流水をかけてください。衣服の上からでも、構いません。それだけで、ヤケドの深さを軽くできます。そうです、ヤケドの程度は深さで決まります。余談ですが、夏の日焼けは、浅い全身ヤケドですね。まずは、20分ほど冷やしたら、外科、皮膚科、形成外科へ行きましょう。
ヤケドの深さといえば、お年寄りに多い、低温ヤケドです。電気あんか、コタツ、湯たんぽ。眠ってしまう間に、じっくりと焼けてしまいます。表面は少し赤いくらいなので、最初は、気づかないのですが、意外と深いのです。お湯などによるヤケドよりも、治療に時間がかかります。これも、予防が肝心ですね。
血圧って、高いと何故、悪いの?
「景気悪くて、給料も下がってんだ。血圧ぐらい高くないと、調子でないよ。先生」と、つい、言いたくもなりますよね。ところで、高血圧は、何故、治療が必要なのでしょう。血圧が高いと、何が悪いのでしょう。
最近の医学では、たしかな理由もないのに、ただ経験から行われてきた治療法を、見直す傾向にあります。沢山の患者さんの状態を、きちんと診て、その結果から確かな治療法を見つけようと、いうわけです。 そこで医学研究者たちは、血圧の高いままの方を、沢山集めて、どういう病気が起きるかを、調べたのです。その結果、血圧が正常と言われる方達と比べて、脳卒中、心肥大・狭心症・心筋梗塞などの心臓病、そして腎臓への障害が多いことが判りました。
血圧が、上がりすぎている時間を、なるべく少なくするために、治療が必要なのです。もちろん、薬に頼るだけでなく、塩分を控え、体重を調節し、上手にストレスを解消することが大切です。
血圧の薬って、クセになる?
「でもね~先生。血圧の薬は、飲み出したら止められないって、聞いたけど」と、時々、質問をもらいます。「クセになる」、「止められない」というのを、専門用語で「依存」といいます。タバコを止められない人を、想像してみてください。気持ちも、身体も、タバコを欲しがってしまって、なかなか止められないのです。
医薬品のなかには、確かに、依存性のある薬もあります。ですが、血圧を下げる薬は、そうではありません。つまり、「クセになる」ことや、「止められ」なくなることは、ありません。もちろん、長く飲み続けることで、初めて意味がある薬です。なにしろ、血圧の高い時間を、少しでも短くするために飲む薬ですから、途中で止めてしまえば、飲んでいなかった時と同じような血圧に戻ります。
生活の習慣(食事、肥満、塩分などなど)を、改善するのには時間がかかります。ですから、改善するまでの間、血圧の薬で補うのだと、考えてください。経過を見ながら、少しずつ減らしたり、弱くしたりして、薬が必要なくなる方も、いらっしゃいます。
血圧の薬、副作用は?
最近は、調剤薬局では必ずといっていいほど、薬の説明書を発行しています。また、一般の書店にも、薬についての説明書を手に入れることが出来ます。効き目(薬効)はともかく、その何倍も記載されている副作用。読めば読むほど、怖くなってきますね。もちろん、その薬を飲んだ人の5人中1人に起こるような副作用では、抗がん剤のような、特別な薬でない限り使用は認められていません。怖くなるほど書かれた、多くの副作用は、数千人に1人の場合や、本当に薬の副作用かどうか、疑わしいものまで記載されています。それだけ安全に注意して使用してくださいということです。
ただし、どんなに確率が低くて、ごく稀な副作用でも、発生すれば当人にとっては、厳然たる事実です。薬には、副作用は必ずあります。ですから、特に血圧の薬のように、長期に飲む薬では定期的な健康チェックが必要になります。
高血圧による被害だけを軽くして、尚、薬の副作用を未然に防ぐためにも、1~2ヶ月に一度は、血液検査などを受けてください。薬の良いところだけを上手く利用して健康に過ごしましょう。
糖尿病は、甘いものがいけないの?
糖尿病には、二種類あります。食べ物が原因の場合と、そうではないものです。日本人の糖尿病のほとんどは、食べ過ぎによる糖尿病です。この食べ過ぎというのは、人と比べてという意味ではありません。その人にとって、カロリー過剰か、どうかという問題です。糖尿といわれると、つい、甘いものを連想しますが、野菜やキノコ、調味料以外の食べ物は、身体の中で、全部、糖分に変わります。ですから、甘い物だけの問題ではないのです。食べ物→糖分→エネルギーというわけです。
余分にとった食物(余った糖分)は、肝臓で脂肪に変えて、全身で蓄えます。つまり、太ります。太ると、糖尿病になりやすいホルモンが、多量にでるのです。そうです。糖尿病の予防は、甘いものを控える事ではなく、「太らない」という事なのです。困った事に、どの程度の体重オーバーで糖尿病になるかは、人によって違います。遺伝子の問題なのです。ですから、あまり太らないのに、糖尿病になる人もいるわけです。
少し食べ過ぎただけで、体重が増える人は、糖尿病にも、なり易いと言えそうです。実は、重症の糖尿病では、太るどころか、いくら食べても、ますます痩せます。
睡眠薬と寝酒は、どっちがいいの?
不眠は古くからの病気ですが、最近、増加の傾向にあります。一口に不眠といっても、種類があるのです。)なかなか寝つけないタイプ(入眠障害)それなりの時間、眠っているはずなのに、眠った気がしないタイプ(熟眠障害)明け方に眼が覚めてしまうタイプ(早朝覚醒)などです。この中で一番多いのは、入眠障害です。
お酒を飲めば眠れるけれど、飲まないと眠れないという人もいます。睡眠薬よりは、お酒のほうが身体に良いというのも考えですが、どうしても、お酒の量が増えてしまうので、睡眠薬代わりの寝酒は、好ましくありません。
眠れないことが、ストレスになって、昼間の生活にも影響が出たりするようでしたら、睡眠薬、特に、睡眠導入薬といわれる薬を上手く使うことも考えましょう。でも、「やめられなくなったら怖い」と心配もありますね。昔の睡眠薬には、アルコールと同じように、いわゆる「クセになる」薬もありました。今、一般に使用されている薬には、そのそういう作用(依存性)は、ほとんどありません。むしろアルコールよりも依存性は少ないのです。上手く使って、まず、「眠るクセをつけること」から始めましょう。
睡眠薬って怖い薬?
かつてのテレビドラマで、自殺といえば「睡眠薬」という時期がありました。テレビドラマは、どうも睡眠薬に対する悪い印象をすっかり定着させてしまったようです。またある時期、睡眠薬の一種類が、まるで覚せい剤か幻覚剤かのようにして、市中で売買されたこともあり、ますます、悪いイメージが付きまとってしまいました。
実際は、睡眠薬そのものが原因で、死にいたることは稀ですし、本来の目的(睡眠のため)に使えば、妙な興奮作用もありません。どんな薬も、間違った使い方をしてはいけないということですね。睡眠薬には、すばやく効いて短時間しか作用しない睡眠導入タイプと、少しゆっくり効き始めて、長めに作用するタイプがあります。前回、お話した不眠のタイプによって、使い分けをします。
ところで、眠っているのに寝た気がしない、あるいは、未明に目が覚めてしまう、といった場合には、不眠症以外の病気が隠れている可能性もあります。
熟眠できない?早く目が覚める?
睡眠時間は、充分とれているはずなのに、眠った感じがしなくて、昼間も集中できず、つい、ウトウトしてしまう。そんな症状(熟眠障害)がある場合には、夜間無呼吸症候群の可能性があります。太り気味であったり、鼻がいつもつまっていたりする方、いびきがうるさい方は、要注意です。これは、眠っている間に、呼吸をしていない時間が長く、休んでいるのに疲れてしまうのです。酷い場合には、心臓に悪影響を及ぼします。まず、検査が必要です。今は、簡易の検査装置も開発されています。
明け方に目が覚めてしまう(早朝覚醒)、睡眠時間が短いけれど眠たくない。そういう方の中には、うつ病、あるいは、甲状腺ホルモンの異常が、隠れている場合があります。この場合には、眠る時間が短いだけでなく、他の症状も出現します。
うつ病の場合は、「数週間にわたって、一日中憂うつで、楽しい感じがしない」また、「食欲が落ち込んだり、暴飲暴食をしたりする」、「気分にムラがあり、イライラしたりして集中できない」といった症状です。
甲状腺の異常は、ホルモンも働き過ぎの場合です。指先が震えたり、動悸がしたり、食欲が増して、睡眠時間が短いわりには、元気で活発です。下痢や足のむくみも見られます。睡眠は健康のバロメーターです。普段と違ってきたら、要注意です。
体温って、何故、上下するの?
熱が高いと脳炎になってしまう、と心配ですよね。風邪などのウイルスによる発熱と、熱中症の場合とでは、少し事情が違います。もちろん、人間はタンパク質で出来ていますから、体温が42度を超えるとタンパクが壊れてしまい、命にかかわります。
では、体温はどうやって調整されるのでしょう。これは、「自分で作り出す熱」や「与えられる熱」と、「奪われる熱」の綱引きです。人間の身体には、熱を作る仕組みと、熱を逃がす仕組みがあって、上手くバランスをとっているのです。
暑い場所では、熱を逃がす仕組みが、たくさん働きます。寒い時には、熱を作る仕組みが、がんばって働きます。これによって、36.5度前後に体温は、安定しているのです。この体温を決めているのは、脳の中にある体温の中枢神経です。風邪をひいて熱が出るときは、どうでしょう。これは、風邪のウイルスの影響で、体温の中枢神経が、設定温度を上げてしまうためにおきるのです。たとえば、38度に設定を変えてしまうと、体温中枢が「おや、体温が36度しかないぞ。2度も身体が冷えている」と錯覚します。そこで、身体を震わせ、熱を作り出します。これが、寒気です。ですから、錯覚した設定温度(この場合38度)まで上がると、寒気はなくなります。
風邪による発熱は、ウイルスの影響で身体の体温中枢が設定温度を上げるためのものです。ですから、平熱だと身体が冷えていると、錯覚して寒気を感じ、熱をあげます。体温の上昇をふせぐ冷却装置がうまく働かなくなって、体温があがる熱中症の場合は、自分から体温をあげるわけではないので、寒気は感じません。むしろ身体は、体温を下げたいのですから。身体を冷やす仕組みは、汗の蒸発が一番の役割です。他にも、皮膚の血管を広げたり(顔などが赤くなりますよね)、呼吸を荒くしたりする方法もありますが、気温(室温)が31度を超えると、有効なのは汗の蒸発だけになります。汗の原料は水分と塩分ですが、これは、補給をサボらなければ大丈夫です。
問題は、汗の蒸発です。湿度の高い日本では、無風の場所にいると、汗は乾きません。太陽の当たらない屋内だからといって、熱中症がおきないわけではないのです。むしろ、水分補給をしていても、汗が蒸発しないため、起きやすいかもしれませんね。
ところで、高熱になると、脳に障害がおきると言われますね。実際は、どうなのでしょう。今まで、お話したように、体温が上昇する原因は、環境による場合とウイルスなどの感染による場合が、大部分です(他にも、薬剤などによる高熱もあります)。熱中症の場合は、確かに体温が40度付近まで上昇すると、意識も悪く、血圧も下がり、脳だけでなく全ての臓器を壊してしまいます。
風邪による発熱の場合は、脳をはじめ、他の臓器が障害を受けるほどの高熱になることは稀です。むしろ、体温の高さよりも、体力や抵抗力が低下して、ウイルスが直接、脳や心臓に炎症を起こすことのほうが、多く見受けられるのです。ですから、熱が高くなることがすぐに、脳などに影響するわけではないのです。解熱剤の目的も、熱を下げることよりも、熱を下げて体力を養う意味で使用します。
咳が出るのは、何故でしょう
昨年の冬から今年の夏にかけて、咳がいつまでも続く風邪の方が、多かった印象があります。ところで、咳は何故出るのでしょう。一番、納得しやすいのが、慌てて飲み込んだ時にむせてしまう、あの反射ですね。本来の空気の道、気管(肺へと続く管です)のほうへ、空気以外のものが入り込むとむせます。咳も似たような反射なのです。
さて、では咳の原因で一番多い風邪の場合は、どうでしょう。たとえば、鼻水が知らず知らずのうちに、ノドの方へ流れ込むと、咳の原因になります。また、肺の奥のほうから、痰などが出てきても咳の原因となります。また、炎症がノドにおきて、その部分が浮腫んでも、異物感を感じで咳払いをしたくなります。つまり、1)口のほうから入り込む場合と、2)ノドが腫れている場合、3)痰が出てくる場合の大きく三つに分けて考えると良いのです。先ずは、入り込む場合について、いろいろな原因と治療についてお話しましょう。
口からノドへ入り込む場合についてお話します。口から入るものといえば、食べ物や飲み物の他に、自分の唾液があります。本来なら、胃へ続く食道へ入るはずのものが、誤って気管の方へ入り込むと、咳の反射がおきます。この反射が元気な間は、むせ込むだけで害はないのですが、年齢と共に、あるいは、脳の障害などで、鈍くなると、飲食物や唾液が肺に入り込み、場合によっては、肺炎の原因になります(誤嚥性肺炎といい、なかなか厄介です)。食事のときに頻繁に咳が出る、眠っている間、よく咳をしているといった方は、要注意です。
他には、鼻水の垂れ込みも、原因です。風邪をひいて、鼻水がノドへ落ちることは、多くみかけます。感冒薬の鼻水止めなどを飲んだあとから、咳が出てきたら、そういう可能性もあります。アレルギー性鼻炎の治療や、鼻づまりの治療が必要です。最近では、胃液の逆流が咳の原因として注目されています。ムネヤケや食後の咳などが特徴です。こちらは、胃酸を抑える薬や、胃の排泄を良くする薬を使います。
ノドが腫れている場合も咳がでます。医学的には、気道で炎症が起きている場合のことです。ノドが腫れて炎症を起こすと、分泌物が増えます。それを気道の外へ出すため、あるいは、分泌物と一緒に原因を排除するために咳をします。この場合には、炎症を抑えたり、分泌物を外へ出し易くしたりする薬を使います。
三番目に、痰が溜まっていても咳はでます。ところで痰の元は、何でしょう。これは、バイ菌と戦った細胞の死骸だったり、生え変わった肺の一部だったりします。痰が多いということは、気道(気管や気管支、肺)で、バイ菌と戦争がおきているということですね。この場合には、抗生物質が必要になります。
今までお話してきた咳は、どれも、肺に異物やバイ菌がいて、それを外へ出すための作用なのです。ですから、むやみに咳止めを使ってしまうことは、慎んだほうが良いようです。ただし、激しく、しつこい咳は体力を消耗します。その場合には、咳止めが必要なのです。解熱剤と同じように、体力を温存するために使います。
アレルギーで有名なのは、花粉症ですね。そのほかにも、ペットの毛や皮、ダニなどを含んだホコリも原因として多いのです。さらには、建物につかう建材の接着剤なども原因として注目されています。咳のでる季節や、身の回りなどの環境の変化に、咳の原因を見つけ出せることもありますから、気に留めておいてください。この場合は、原因を遠ざけ、アレルギーの薬を使います。
実は、医薬品の中に、咳を副作用とするものもあります。比較的。良く使われている血圧の薬の一種が有名です。咳が出るくらいの強さで効目があるとも一説には、いわれています。とはいえ、咳がひどく、気になるのでしたら、処方された医師に相談してください。この場合は、違うタイプの血圧の薬に変更します。くれぐれも、自己判断で中止しないことが大事ですね。
浮腫みって何でしょう
クリニックで相談を受ける心配事の中の一つに、浮腫みがあります。ところで、浮腫みとは、何でしょう。私たちの身体のほとんどは、水分で出来ています。そして、その水分の量はもちろん、水分が身体の何処に配置されるかも、決められています。水分量と水分の配置、そのどちらのバランスが崩れても、浮腫みは発生します。
簡単な例を挙げましょう。お酒の飲みすぎの翌日に浮腫むのは、身体の中の水分の量が増えたからです。一日中、歩き回った翌日に足が浮腫むのは、水分の配置が足に(正確には、足の血管の外に)偏ったためです。あるいは、極端な言い方ですが、腎臓による浮腫みは、水分量の問題。心臓による浮腫みは水分の配置の問題ともいえます。
財布の中身や体重も同じですが、増えるということは「取り入れるものが多い」または「出て行くものが少ない」ということです。まずは、摂り過ぎの場合です。人間は余計に水分を取っても、尿や汗になって水分が外へ逃げていきます。ですが、飲んですぐに排泄されませんので、一時的には水分が増えて浮腫みます。お酒などの水分の取りすぎで、翌日まで浮腫むのは、このためです。この場合は、余分な水分は時間とともに排出されるので、浮腫みも時間とともに良くなります。あまり心配のない浮腫みですね。問題は、水分が排泄されない場合です。この場合には、心臓、腎臓、ホルモンに異常がある場合があります。心臓は、尿の原料になる血液を腎臓に運びます。腎臓は血液から尿を作って、不要のものと一緒に体外へ出します。ホルモンは、身体の水分量などの情報から適正な尿の量を決めています。ですから、これらのうちのどれかが異常をきたしても、尿の量が変化してしまいます。
浮腫みの原因で、一番問題になってしまうのは、余分な水分が体の外へ排泄されないというものです。この場合には、心臓、腎臓、ホルモンに異常があります。まず、有名な心不全です。心臓は、尿の原料になる血液を腎臓に運びます。ですから、時間あたりに運ばれる血液の量が減ると、尿は少なくなります。簡単にいうと血液の勢いが弱いと尿が少なくなります。心不全のうち、血圧が急に下がってしまう急性心不全の場合は、心臓の症状(胸痛など)が出ますので、分かり易いのですが、ゆっくりと心臓の働きがおちる慢性心不全は、浮腫みが出るまで、判りにくいこともあります。慢性心不全の最初の症状は、横になって30分後ぐらいにはじまる咳の発作です。特徴は起き上がると咳が楽になることです。これは肺が浮腫むからなのです。
身体の水分を調節する腎臓に異常があっても浮腫みがでます。前回にお話した心不全は肺の浮腫みで始まりますが、腎臓の場合は目の周りなどの顔の浮腫みや足の浮腫み、あるいは全身のだるさなどの症状で始まります。心臓と同じように、急性腎不全と慢性腎不全があります。腎臓自体が原因となる急性腎不全は、一気に身体の水分が増えるので血圧も上がります。慢性の場合は、塩分やカルシウムのバランスも崩れるので、脱力感などが強くでます。尿毒症と言われる症状もでて身体が過度に酸性になっていくのです。またタンパクも尿とともに失われるので、一層、全身の浮腫みが酷くなります。
あまり多くはありませんが、水分のバランスを保つホルモンの異常でも身体の水分量が増えて浮腫みます。肺癌の一種は、この種類のホルモンを産生することで有名です。このホルモンは水分の排泄を止めるように働くのです。結果として浮腫んでしまいます。水分量というのは塩分の量とも関連しているため、塩分のバランスも崩れて、筋肉の力が抜けてしまったりもします。
<p>皆さんが一番よく経験するのは、脚の浮腫みではないでしょうか。なぜ脚が多いのかということの前に、二つのことを理解してください。第一に血液が流れている血管は、実は、布袋のようなもので、細かな網目(出入り口)が無数にあるいうこと、第二に心臓から遠く離れるほど、血液を流すという心臓の力は弱くなるということです。脚は、立っているときには体の一番下になります。布袋の入れた水が染み出てくるのは、袋の底の部分ですよね。これと同じことが人の脚にもおこります。つまり体の下のほうになっている部分では血管の中から外へと水が染みやすいのです。ですから、寝たきりになっている方の場合には、背中が浮腫むのです。その上に、心臓から遠く離れている脚の場合には、血液を心臓に返す力は脚自身の筋肉の運動に頼っています。ですから、歩きまわっているよりも、じっと立っていたり、座っていたりする時間が長いほうが筋肉も動かないので、よけいに浮腫みやすいのです。
水分が増える場合は、飲んだ水の量よりオシッコの量が減ってしまうということです。原因として、心不全、腎不全、ホルモン異常のほかに、塩分の取りすぎ等があります。水分の配置が崩れて起きる浮腫みは、前回お話した、寝てばかりいる場合とか一日中じっと立っている場合に、地面に近い部分(寝ていれば背中、立っている場合は足)が浮腫む場合です。この場合には、体重に変化はありません。
その他にも、水分の配置が崩れる場合があります。血管の中を流れる血液が薄くなると、水分が血管から漏れてその周りに溜まりますので浮腫みます。たとえば、貧血とか栄養不良、あるいは、極端な塩分の制限(汗をかいたときに塩分を補わないで水分だけを取りすぎた場合)などです。どの場合も血液がもつ「水分を含む力」が低下して、その水分が血管の外へと漏れてしまい、浮腫みとなります。
このように、浮腫みといっても原因はさまざまですし、いくつもの原因が重なる場合も多いので「水の取りすぎかも」とか「塩分が多いのだ」とか、あるいは「心臓が悪いのだ」と、自己判断せずに早めに受診されることをお勧めします。